喫煙習慣は「ニコチン依存症」だ
喫煙習慣は「ニコチン依存症」だ
« 煙草をやめるなんてとても簡単なことだ。私は百回以上も禁煙している。 »
Mark Twain(マーク・トウェイン: 1835~1910)
ニコチンは「ヤク」です
久しぶりにたっぷりとタバコを吸うと、頭がクラクラして指先が少ししびれたりします。ニコチンは喫煙後数秒で全身に回ります。ニコチンは中脳辺縁系の側座核などのニコチン性アセチルコリン受容体に結合してドーパミンなどの神経伝達物質を過剰放出させ、さらにシナプス後膜の過剰興奮を引き起こします。その結果、脳神経の一部が興奮し、ある種の快感を感じさせます。しかし、長く喫煙して「ニコチン依存症」になると、受容体が減少しシナプス前膜の神経伝達物質の放出能力が徐々に衰えてきます。そうなると、ニコチンなしではシナプスの神経伝達機能が保てなくなります。「ニコチン依存症」になっているひとが禁煙すると、イライラ、落ち着かないといった「ニコチン離脱症状」となってあらわれます。この依存性形成機序はコカイン・ヘロインなどの依存性薬物と同じです。
ニコチンは「毒」です
末梢神経にもニコチン性アセチルコリン受容体が存在し、血管を収縮させて手足の血流を悪化させ、血圧を上げます。「閉塞性動脈硬化症」の患者が喫煙すると、下肢の壊死を招くことがあります。
縮瞳・悪心・嘔吐・下痢を起こし、過量投与では振戦・痙攣・死亡に至ります。乳幼児ではタバコ1本(ニコチン10~20mg)、成人でも50~60mgが致死量とされています。
喫煙関連疾患
- 癌
煙草にはベンゾピレン・ジメチルニトロサミンなどの発癌物質が含まれています。
喉頭癌・肺癌・肝臓癌・口腔癌・咽頭癌・食道癌などが発生しやすくなります。 - 動脈硬化
喫煙は協力に動脈硬化を促進する。脳梗塞・心筋梗塞・閉塞性動脈硬化症。 - 呼吸器
COPD(肺気腫・慢性気管支炎)は不可逆性のことが多く、進行すると酸素吸入が必要となることがあります。受動喫煙でも肺癌に罹りやすくなり、家族が気管支喘息になることがあります。 - 皮膚
美貌の女性も喫煙すると5歳ふけて見えるそうです(smoker’s face)。 - 口腔
歯槽膿漏
ニコチン離脱症状
ニコチン離脱症状には、イライラ・倦怠感・ボウーとする・集中力低下・頭痛・不眠・決断力低下・眠気・動悸・便秘などがあります。
離脱症状は2~3日がピークでおおむね1週間、長くても2~3週間で消失します。
節煙・減煙は残念ながらムダな努力、
煙草とのつきあいはオール・オア・ナッシング
喫煙者にタバコの害を説くと、「本数を減らします」とのたまう方が結構おられます。残念ながらこれはムダな努力です。喫煙者の多くはニコチン依存症です。タバコを吸うとニコチン血中濃度がすぐに急上昇しますが、数十分でニコチン血中濃度は低下し、ニコチン離脱症状のイライラや集中力低下が始まり、そこに精神的ストレスが加わるとさらにイラツクことになります。「本数を減ら」せば、一日のうち何時間もイラツイて過ごすことになります。その結果、何日間か何ヶ月間かをムダにイラツイて、結局、喫煙本数が元に戻るか、さらに増加してしまいます。
なぜこうなるかというと、喫煙習慣は「ニコチン依存症」なので、ニコチンを吸わないで数週間を過ごさないと「ニコチン依存症」が解消しないからです。
ヘビースモーカーでもタイミングを選んで一気に卒煙
一日に二箱三箱吸うヘビースモーカーでも、一気に卒煙しましょう。もう一生分吸ったでしょ?もしまだ吸いたければ、今日のうちに心ゆくまで吐き気がするまでたっぷり吸ってください。そして吸い終わったら、タバコや灰皿、ライターなどすべて処分してください。歯も磨いてくださいね。
ただし、意志の強さに自信のないひとは、禁煙開始後の離脱症状のきつい二三日間のんびりできるタイミングを選んでください。この二三日につらい仕事を予定しないようにしましょう。
禁煙を開始してイラツイたり、集中力が切れたら、この調子の悪いのは、二三日がヤマで、あとはどんどんラクになることを思い出してください。
離脱症状の対策
まずは、イラツイていることを素直に受け入れてボウーとしていることです、どうせ数日で改善しますから。
そうはいってもやはりつらいときがあります。イラツイたり不安感がきたら、冷たい水や熱いお茶・ガムを噛んだり歯を磨く・深呼吸や体操、などで意識をタバコ以外へ向けましょう。
なお、禁煙続行に自信がつくまでは、
- 喫煙場所やタバコを吸ってる人に近寄らない、
- 酒席を避ける、
- 食事は野菜を多めに、肉と脂こいものを控える、
のが安全です。
禁煙が失敗したら
禁煙が失敗しても諦めてはいけません。一度や二度で卒煙に成功した人はさほど多くありません。ニコチンガムやニコチンパッチによる「ニコチン置換療法」も良い方法です。さらに、「飲む禁煙薬」が登場しました。
- ニコチンガムの注意点
商品名は「ニコレット」です。薬局で買えます。コツとしては、普通のガムとは違って噛みつづけてはいけません、数回かんだら歯茎と頬のあいだにしばらく挟んで置いてください。イライラが収まったら取り出して再包装すればまた使えます。 - ニコチンパッチの注意点
商品名は「ニコチネルTTS」です。以前は、医師の処方箋が必要でした。「禁煙外来」を受診すれば保険を使えます。製剤としてニコチン含有量の多い順に「TTS30」「TTS20」「TTS10」の3種があります。普通は「TTS30」からはじめて入浴後に一日一回一枚貼ります。ときに悪い夢を見たり、眠れなかったりすることがあります。そんなときには、含有量の少ない製剤に変えるか、朝に貼るようにします。副作用として、貼付部のかゆみ・かぶれが起こることがあるので、貼る部位を毎日変えて下さい。
2008年から「TTS20」は「ニコチネルパッチ20」として、「TTS10」は「ニコチネルパッチ10」として処方箋なしで薬局で入手可能となりました。 - 期待の「飲む禁煙薬」
「バレニクリン」という新薬がやっと日本でも発売になりました。脳内のニコチン受容体に弱く作用して喫煙した時と似た満足感を与え、逆にニコチンが受容体に結合するのを阻害するので喫煙しても満足感が得られにくくします。「チャンピックス」の商品名です。
この薬は、禁煙外来での処方が必要です。
禁煙が成功しても
「何年間も禁煙していたのに、一本吸ったら、数日でヘビースモーカーに戻ってしまった」と訴えるひとがしばしば見うけられます。これが「一本おばけ」です。一本吸うと、その時は「一本だけだったし、そんなに美味しくなかったから大丈夫」と思っても、数日後にものすごく吸いたくなってまた吸ってしまうのです。
「一本くらい吸っても大丈夫だよ」と思ったときに卒煙は破綻します。残念ながら、人間の脳と神経には、ニコチンが入ると快感を覚える「ニコチン性アセチルコリン受容体」があります。コロンブスがタバコを発見したのは1492年で、16世紀には秀吉と淀君がニコチン依存症になっていたほどにニコチンは人類にとって親和性の高い「ヤク」なのです。