アスベストによる病気
アスベスト(石綿)とは?

アスベスト(石綿、いしわた、せきめん)は、天然の鉱物繊維(主成分は珪酸マグネシウム塩)です。ほとんどが輸入品。
一本の細さは、だいたい髪の毛の5000分の1程度の細さです。綿、羊毛、麻などのの有機繊維と同様にほぐすと糸や布に織れるしなやかさがありながら、燃えず腐らず引っ張りに強く保温性のある鉱物の繊維を、人類は紀元前数千年のフィンランドの土器、エジプトのミイラの梱包、そして奥州藤原氏のミイラ保存などに用いてきました。
主なアスベストの種類
角閃石(かくせんせき)族

クロシドライト(青石綿)
1995年より使用も製造も禁止。アモサイト(茶石綿)
1995年より使用も製造も禁止。
蛇紋石(じゃもんせき)族
クリソタイル(白石綿、温石綿)
クリソタイルから作られる石綿を温石綿と呼ぶ。2004年10月、使用が禁止されました。
「職業性石綿暴露と石綿関連肺疾患」森永謙二 三信図書 2005
アスベストと私たちの生活
アスベストはとても重宝なものでした。
耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性に非常に優れ安価であるため、建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきました。
アスベストはこんな所に使われていました。
建材関係(全体の9割以上)
- 吸音、断熱材として吹き付けアスベスト(1956年~1970年)
- 外装材、内装材
- 屋根材(屋根瓦、屋根スレート)
- 石綿塗料
建材以外では、種々の断熱材、電気の絶縁材
- 船舶(断熱材として吹き付けアスベスト)
- 自動車や鉄道車両のブレーキパッド、クラッチ板
- ガスケット、シーリング材、パッキング、水道管、鋳造の炉
- ボイラー断熱材、作業靴、消防服
- 家庭では昔のアイロンやトースター
- 清酒のろ過器、菓子のかまど
アスベスト使用の現況
2006年から、ミサイルの断熱材などきわめて一部の例外を除いて、アスベストの使用と製造は全面的に禁止されました。
アスベストに関連する疾患
- 吸入されたアスベスト自体はレントゲンに写りません。
- 吸入されたアスベスト自体は症状を起こしません。
- これから述べる病気は体のなかのアスベストに対する生体の反応です。病気が発生する人はアスベストを吸入した人の中でかなり少数ですし、病気が発生するまで長い年月がかかります。
胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)
胸膜プラークは単独では労災補償の対象とならない
健康管理手帳を申請すれば、無料の定期検診の対象にはなる
- アスベストを吸入してから15年~30年を経て、ところどころの胸膜(肋膜)が厚くなる疾患です。
- 20年以上たつと厚くなった胸膜が石灰化してレントゲンで目立つことが多いので、アスベスト曝露の指標として重要です。
- 石綿肺を起こすほどではない、少量のアスベスト曝露でも発生します。
- 胸膜プラークはふつう症状を伴わないので、これだけに留まれば予後は良好です。しかし、胸膜プラークがあるひとは肺癌と中皮腫の発生率が高いので注意が必要です。
- 胸膜プラークは検診などでしばしば発見され、決して稀ではありません。しかも、ご自身がアスベストを吸入したことを自覚していないことが多いのです。
良性石綿胸水
- アスベストを吸入したひとに発生する良性の胸水です。
- 胸痛や息切れがあることが多いが無症状のこともあります。
- 数ヶ月(1~10ヵ月)で自然に軽快することが多いが、長びくことも再発することもあります。
- 胸水に特別な特徴はないので、結核などの他の原因が見つからないことが診断の第一です。さらに、「胸水が始まった後、3年間癌が見つからない」ことが診断の条件なので、すぐには診断できません。
- 改善後に「びまん性胸膜肥厚」や「円形無気肺」を残し、肺機能障害などを起こすことがあります。
石綿肺
- アスベスト吸入によるじん肺です。
- 肺に吸入されたアスベストに対する生体の反応の結果、肺に「線維化」が生じて、肺が硬くなる病気です。
- 高濃度のアスベスト曝露によってのみ生じます。
- 主症状は空咳と息切れです。進行性です。
- アスベスト吸入歴を知らないと他の「間質性肺炎」と見分けがつかないことがあります。
びまん性胸膜肥厚
肺癌
- アスベストを多量に長く吸入すると、曝露後10年以上で肺癌が発生しやすいことが知られています。
- アスベスト吸入と喫煙の組み合わせはさらに肺癌を増やします。
- アスベストによる肺癌は、それ自体他の肺癌と比べて特に変わりありませんので、アスベスト吸入歴や石綿肺、胸膜プラークがないと、アスベストとの関連がわからないことがあります。
- 早期発見できれば、「治癒」が期待できます。
- 現在検討中の新法では、石綿肺や胸膜プラークのある肺癌を「アスベストによる病気」として補償する方向で検討中、と報道されています。
中皮腫
- 胸膜や腹膜に発生する悪性腫瘍、つまり広い意味での「がん」です。
- 中皮腫の80%はアスベスト曝露と関係するといわれています。
- アスベストの吸入開始後、十数年から五十数年(平均40年)を経て発病します。
- 石綿肺や石綿肺癌と比べ、少量のアスベスト曝露でも発症します。
- 胸膜(肋膜)に発生すれば、胸膜中皮腫です。症状は胸痛と息切れです。
- 腹膜に発生すれば腹膜中皮腫です。
- 症状は腹部膨満と腹痛です。
- 残念ながら、「難治性」の悪性腫瘍です。
まとめ
- 吸入された石綿自体はレントゲンに写りません。
- ここに示した病気は体のなかの石綿に対する生体の反応です。病気が発生する人は石綿を吸入した人の中でかなり少数ですし、病気が発生するまで長い年月がかかります。
- レントゲンで「石綿肺」や「胸膜プラーク」があれば石綿を吸入したと考えられます。
- 吸入された石綿自体はレントゲンに写りませんが、ここにお示しした病気がおこれば、レントゲンやCTに写ります。肺を洗浄したり、肺の一部を採取して調べれば肺内の石綿を証明できます。
- 残念ながら、体の中の石綿に対する生体の反応をとめる手段も、体のなかの石綿を排出する方法もありません。
- もはや新たなアスベスト製品は殆ど作られていませんが、建物などに用いられた大量のアスベストが残っています。一次予防としては、「建築物解体」をキチンと行うことが求められます。
- アスベストによる病気でも人間ドックや検診での早期発見が大事です。